東京地方裁判所 昭和31年(ワ)111号 判決 1968年9月19日
原告 橋永興産株式会社
被告 富士製鉄株式会社 外一名
主文
原告の期日指定の申立を却下する。
本件訴訟は昭和三二年三月二〇日の準備手続期日において和解が成立したので終了した。
本件に関し昭和四二年四月一九日以降生じた訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告代表者は、本件につき準備手続期日の指定を求め、その理由として、
(一)、本件については訴訟記録上、昭和三二年三月二〇日午前一〇時の準備手続期日に原告代表者橋永荒記、原告訴訟代理人山田徳治及び被告両名訴訟代理人佐々木吉長が夫々出頭し、橋永荒記が個人として和解に参加し、原被告及び利害関係人橋永荒記の間に別紙条項<省略>の和解が成立したことになつている。
(二)、然しながら右の和解は次の事由により不成立ないし無効である。
(イ)、昭和三二年三月二〇日午前一〇時原告代表者橋永荒記は訴外産業振興株式会社専務取締役小沢肇によばれて、東京都中央区日本橋通り三丁目にある右訴外会社の事務所に出かけた。右訴外会社は被告富士製鉄の子会社であつて、小沢は本件につき示談の仲介をしているもののようであつた。そこで橋永は小沢より『訴訟は弁護士に任かすこととして、此処だけの話として一〇〇万円を差上げるが、立替分が二〇万円ある』と言われ、これを差引かれて金八〇万円を渡され、内容をよく見せられずに何枚かの書類に押印させられた。そして同日午後二時橋永はここを辞して帰宅したもので、当日裁判所には出頭していない。
(ロ)、原告代表者橋永荒記は山田徳治弁護士に本件を委任したことはない。橋永は訴外小沢肇に言われて、受任者、事件名の記載のない委任状用紙に署名押印したことはあるが、これにより本件を山田弁護士に委任することを承諾したことなく、従つて事件内容を同弁護士に告げた事実もない。
(三)、よつて本件につき裁判を求めるため本申立に及んだ、
と述べた。
被告両名訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実を認めるが、(二)の事実を否認する。原告代表者橋永荒記は昭和三二年三月二〇日の準備手続期日に出頭して自ら和解を成立させたものであり、又本件につき山田徳治弁護士に対し訴訟の追行及び和解の件を委任していたものである、
と答えた。
立証<省略>
理由
本件記録によれば、本件訴訟は準備手続に付され、昭和三二年三月二〇日午前一〇時の準備手続期日に原告代表者橋永荒記、原告訴訟代理人山田徳治及び被告両名訴訟代理人佐々木吉長が夫々出頭し、準備手続裁判官は和解を勧告し、原告代表者橋永荒記は個人として和解に参加し、その結果別紙条項の和解が成立した旨の準備手続調書が作られている。
ところで原告代表者は右期日に出頭したことはない旨主張するけれども、民事訴訟規則第二二条によれば『準備手続の調書については、別段の規定がある場合のほか、口頭弁論調書の例による』とされ、調書の証明力については別段の規定がないので、民事訴訟法第一四七条『口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書に依りてのみ之を証することを得』の規定を準用すべきものである。そして準備手続は口頭主義を原則とし、期日には当事者を呼出すことと定められてあるから、期日における当事者の出欠は準備手続の方式に関する事項というべく、従つて準備手続調書に当事者が出頭した旨記載されている以上、反証を許さない趣旨と解すべきである。
而して問題の準備手続調書には該期日に原告代表者が出頭した旨明記されているから、これに反する原告の主張は採用することができない。
次に原告は、山田徳治弁護士に訴訟代理権及び和解の代理権を与えたことがないと主張する。前述の通り原告代表者が自ら期日に出頭して和解が成立したものである以上、山田弁護士の代理権の有無は和解の効力を左右するものではないが、念のため、この点を判断する。原告代表者尋問の結果中には、これにそう供述があるけれども、他方右原告代表者尋問の結果によると、山田弁護士に対する訴訟委任状(甲第九号証)の署名押印は、原告代表者が自らしたというのであり、これと証人山田徳治の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証とによれば、原告代表者の前記供述は到底信用できず、右にあげた証拠によれば、原告代表者は山田徳治弁護士に本件訴訟代理権及び和解の代理権を与えたことを認めることができ、この点に関する原告の主張を採用できない。
してみれば昭和三二年三月二〇日の準備手続期日に和解が有効に成立し訴訟が終了した事実は、いずれの点よりするもこれを否定できず、本件期日指定申立のあつた昭和四二年四月一九日まで一〇年余の間、原告より本件訴訟に関し何ら申出のなかつたことはこれを裏付けるものというべきである。
よつてその旨を宣言し、原告の期日指定申立を却下することとし、昭和四二年四月一九日以降生じた訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条に則り主文の通り判決した。
(裁判官 室伏壮一郎)